EUトップのフィンテック市場、ベルリン
ドイツで金融に強い都市といえば、世界の銀行が結集するフランクフルトです。ベルリンがスタートアップエコシステムの上位を維持し始めても、ベルリンの強みはコマース系でありフィンテックはフランクフルトに強みがあるのだろうと言われていたのは、すでに今は昔となりました。
ベルリンはフランクフルトを遥かに凌いで、名実ともにドイツ1位のフィンテックの首都です。今回は、そんなドイツとベルリンのフィンテックシーンについてレポートします。(この記事はJETRO INNOVATION向けに書いたもののリライトです。)
ドイツのフィンテック市場
会計コンサルティング会社大手アーンスト・ア ンド・ヤング(EY)のレポート「Start-up- Barometer Germany」によると、ドイツ全体の 2019年の投資総額は、1位がモビリティで、2位が前年比約2倍となったフィンテッ ク(インシュアテックなど含む)でした (単位はビリオン€)。同レポートによると 2019年のフィンテックスタートアップへの投資件数は前年比1.2倍の67件。フィンテック 投資案件で1位となったのは、オンラインバ ンキングを提供するベルリンに本社を置くN26であり、266百万€となっています。
投資総額・件数で群を抜くベルリン
同じEYのレポートによると、2019年フィンテック全体の投資総額の76%ほどが、ベルリンのス タートアップを対象にしたものでした。 (単位:百万€。カッコ内は投資ラウンド数)。
ついでハンブルグ、3位はミュンヘンがあるバーバリアと続きます。国際金融の中心地フランクフルトを含み、欧州中央銀行、証券取引所、ドイツ銀行やコメルツ銀行本店などがあるヘッセンは4位。投機金額もわずか22百万€で、投資ラウンドは9件というさびしい現状です。
ベルリンのフィンテックエコシステム
ヨーロッパでフィンテックといえば、世界に名だたる金融街を持つロンドンを思い浮か べるでしょう。2014年当時の財務大臣は、イギリスをGlobal Fintech Capitalとして発展させると宣言し、金融には様々な規制があるのですが、革新的なサービスを推進するためにそ れらを分かりやすくしたり、整理したりしたり、緩和したりと、イノベーションを推進す べく支援を行ってきました。
フィンテックを積極的に推進する都市は、ロンドンやシンガポール、東京を始め、世界的な金融街のある都市であることが多く、ドイツで金融の街として名高いのは、今もフラ ンクフルトです。にもかかわらず、ベルリンでは、フィンテックスタートアップによる 次世代金融プラットフォーム・サービスが大きく育っており、先に見た通り、投資件数においても投資総額においても群を抜いています。
ベルリンには、以下の三点のように、これからもますますフィンテックが伸びそうな環境が整っていると思います。
フィンテックの成長に尽力するエコシステム&カンパニービルダーであるフィンリープ (Finleap GmbH)の存在
N26のように、ロールモデルとで も言うべきフィンテックスタートアップが存在すること
フランクフルトに本社をおくメガバンクなどもイノベーション部門はベルリンに設置し、スタートアップエコ システムが整っており活発であるベルリンでアクセラレーションを行っていること
イギリスのEU離脱により、ヨーロッパ随一のフィンテックスタートアップエコシステム となったベルリン。以下に、その中でもカンパニービルダーであるフィンリープと、ベルリンの有力なスタートアップを4社を紹介します。
2014年に創業したフィンリープ社は、今は11,000m²のスペースにフィ ンテック企業を30社以上(数字はウェブサイトより。2020年3月現在) 抱えるエコシステム・カンパニービルダーです。自身で投資部門、イノ ベーション部門、政策との連携部門を持ち、以前は銀行だったその本社ビルでは投資家とのミーティング、フィンテック業界のコミュニティイベント、フィンテックの女性起業家支援などが行われ、エコシステム内の企業をつなぐマーケットプレースにもなっています。フィンリープ社によると、フィンテックで成功する企業のタイプは2つに分かれており、1つ目は顧客の問題を解決する企業であり、2つ目はそれらの企業をステートオブ アートの技術をもつプラットフォームで支える企業だそう。2019年1月には日本の株式会社マー キュリアインベストメントより投資を受けたフィンリープ社(https://ssl4.eir-parts.net/doc/ 7190/tdnet/1667652/00.pdf)。ヨーロッパのフィンテックパワーハウスと化したベルリンのフィ ンテックシーンを担っていることは間違いないでしょう。
言わずと知れたベルリン発モバイルバンキングのユニコーン、N26 社。使い勝手のよいUX、ビジネス版としても使えるアカウント、プレミアムカードなど、ユーザーにとってシンプルなのに痒いところに手が 届くアプリとサービスで、人気を博しています。
N26は2013年、Plug&Palyのアクセラレーションプログラムに第1期コホートとして参加し、ベ ルリンの老舗VC、Earlybird Venturesなどからの投資を経て成長を続けました。N26社の市場はドイツ だけではありません。2015年にはヨーロッパの5カ国以上、現在はアメリカ市場にも上陸し、いまやN26は20カ国以上でモバイルバンキングを提供するグローバル企業でです。2019年1月にはシリーズ Dラウンドにて266百万€を調達し、ベルリンをヨーロッパのフィンテック都市として確固たるものとしました。世界の投資家から注目を集めるベルリンのフィンテック市場は、追随するスタートアッ プにとっても好機となっています。
ソラリス銀行はBanking as a Serviceを提供する、フィンテックのプラットフォーマーです。ドイツの銀行のライセンスがあるため、ソラリスを利用すると、EU圏内でサービスを展開できます。ソフトバンクも出資しているソラリス。サービス利用企業にはスモールスケールビジネス向けのペンタ銀行や、ゼロエミッションを掲げる銀行のトゥモローなどがあり、ソラリスの提供するモジュールを組み合わせ、独自のモバイルバンキングを提供しています。組み合わせることができるものとして、ビットコインやイーサリ アムなどのデジタルアセットも取り扱っており、クリプト為替やセキュリティトークン(STO)を も扱うことができる、業界きってのプラットフォーマーと言えるでしょう。
ノイファンドは、イーサリアムやユーロを用い、10€程度から、誰でもスタートアップ(いずれは不動産なども?)に投資できるブロックチェーンベースの投資プラットフォームです。
一般個人から機関投資家まで、それぞれに合った投資先に、投資したい金額だけ、数回画面をクリックするだけで投資ができます。 これまでは物理的にそれ以上細かく分けることができなかった投資をも可能にするノイファンド は、ある意味投資の民主化をも担い始めたといえる画期的なサービスです。投資する際に手数料は 必要ありません。投資額に応じてノイコインが支払われる仕組みになっており、投資先が増加するなか グローバル展開も視野に入れています。最近投資できる案件が急増し始めた、今後の展開に期待が集まる注目のスタートアップです。
シンプルシュランスは、ECサイトで商品を購入する際などに、商品に合わせた保険を購入することができるようにするプラットフォームを作っています。例えば、アマゾンや楽天で購入した電化製品に保険をかけることができるようになります。シンプルシュランスは2018年に東京海上ホールディングスなどの投資を受け、JETROの支援もうけて日本市場に参入した注目のインシュアテックスタートアップです。
フィンテック系スタートアップは、単なるデジタルトランスフォーメーション、すなわち既存の金融や証券ビジネスをデジタル化しているのではありません。従来の金融機関ではできなかった領域に挑戦したり、徹底的な顧客戦略で 問題解決し、新しく利用者を獲得しています。
昨今ベルリンは世界のスタートアップエコシス テムとつながりあいハブとなることに重きを置きはじめていますが、フィンテック企業においてもそれは同じで、どの企業も欧州はもちろん、初めから世界規模での成功を視野に入 れているといっても過言ではないでしょう。
スマートシティ化が進むにつれ、さらなるイノベーションも期待されます。新しい金融サービスが次々生まれるベルリンのフィンテックセクターの動向に、引き続き注目していきたいと思います。