ドイツ連邦保健省が挑む、 Fail Fast, Learn Fast and Succeed

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2019年はドイツのスタートアップ界に変革をもたらす法の改正が続きました。デジタルヘルス分野でもついに11月7日、「デジタルケア法」がド イツ連邦議会を通過。2020年の早いうちに、医師はデジタル・ヘルス のアプリを処方できるようになり、アプリは保険でカバーされるようになるよ予定です。

この法律により、ドイツはEU諸国の中で、デジタルヘルス分野でトップを走り始めたという見方もあります。 今回はデジタルヘルスセクターの動向をレポートするとともに、同法の ポイントを紹介します。(この記事はJETRO INNOVATION向けに2019年11月に書いたもののリライトです。)


デジタルヘルスセクターで群を抜くベルリン

EYのスタートアップバロメーターによると、2019年上半期、ヘルス系ス タートアップ分野の投資は、ベルリンに集中しました。その内訳は、最も 投資額が多い分野がデジタルヘルス。続いて医療テック、ライフサイエンス (単位百万ユーロ。カッコ内は件数)。デジタルヘルスへの期待はますます高まりを見せています。

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行政系医療保険もベルリンでスタートアップと連携

ドイツの医療保険には、行政のものが幾つかに加え、民間のものも様々あります。2016年、行政系医療保険の最大手「バーマー」は、ベルリンのベンチャーキャピタルが運営するヘルステックファンドに投資をし、大きな話題となりました。バーマーはス タートアップの支援にも積極的です。ベルリンを中心にミートアップなどを行ったり、ベルリン発メディテーション(瞑想)を行う well-being分野のア プリを保険でカバーして提供するなど、デジタルヘルス分野を牽引しています。

現行の法律による限界

一方で、現時点保険でカバーできるアプリは、遠隔医療と呼ばれビデオチャットを通じた医療アドバイスを提供するものもありますが、それ以外はヨ ガ・筋トレ・瞑想などと予防に関するものや、ストレスや育児に関する情報を提供するようなものを中心に、バーマーでは約10個ほどにとどまっています(2019年11月現在)。

被保険者に提供されるアプリは、各健康保険のプ ロバイダーが独自に採用している結果、その保険に入っていなければ保険が効かないことも問題視されています。医者が処方したくてもできるわけではありません。


先駆け、「デジタルケア法」

そういった問題を解決するため、行政、病院などの医療機関、大手製薬 会社や医療機器メーカー、欧州評議会からのコンソーシアム、有識者など を中心に、長い間デジタル医療に関して議論がなされてきました。そしてとう とう、画期的な「デジタルケア法」が2019年11月7日、ドイツ連邦議会を 通過したのです。 これによりドイツはEU諸国の中で、デジタル医療・ヘルス分野 でトップを走り始めたと見られている。そのデジタルケア法の特徴を一部紹介します。

  1. 主治医の判断でデジタルアプリを患者に処方
    (全てではないにしろ)医者が良いと思うデジタルアプリを患者に処方す ることができるようになります。これまでの予防中心のアプリだけでなく、糖尿病患者へのIoTベースの治療からAIとチャットボットによるデジタルセラ ピーなど、幅広い治療領域で一気にデジタル化を進めることができます。

  2. シンプルな審査=実用化しながら臨床結果を証明

    一番画期的だと言われているのが、この部分です。1)すでに効果が一応証明されており、2)セキュリティ、プライバシーやデータ関係の基準などをクリアしている、3)CEIからCEIIa(注1)領域にあるデジタル系の早期発見、予防、治癒アプリは、今後医者が処方できるデジタル医療用のリストに掲載され、医者は自由に処方できるようになります。掲載されてから1年ほどのうちに、きちっとした臨床結果を示せばよいのです。

  3. 情報のデジタル化推進

    1) 遠隔医療の促進
    2021年1月までに、患者は自分のデータにオンラインでアクセスできるよ うになります。自分のデータを医療機関にシェアし、医療機関は処方箋をデジタル化し、オンライン診療が普通になる日もそう遠くはありません。コロナの影響下の2020年4月には、オンラン診療を行う機関もありました。

    2) 医療データネットワークとデータ利用の促進
    薬局や医療機関などは、ヘルスデータネットワークへの参加が義務付けさ れることになります。行政系の医療保険機関は、個人情報保護に配慮したデモグラフィーや症状などのデータを、研究機関などと共有する義務が発生します。


今後の展開:Fail Fast

「デジタルケア法」は、実際に運用してからでないと見えてこない側面が 多々ありますが、うまくいかない部分は施行しながら改良していこう、というコ ンセンサスを経て合意に至りました。

Fail Fastについて言えば、むしろ石橋を叩 いて渡るドイツの安全志向の文化は日本と少し似ているところがあるにも関わらず、行政がFail Fastへの舵をきったことは特筆に値するでしょう。

これまでデジ タル化が進んでいなかった医療の分野においては、特にデジタルトランス フォーメーションがもたらすインパクトは計り知れず、消費者・患者の データは、彼らが持つIoTデバイスなどから日々大量に発生しており、医療 のデジタル化の黒船がどこからか、あるいは外国から来る前に、トップダウ ンで前進したドイツのこれからの動向に注目が集まっています。


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