EUで使い捨てプラスチック製品の新規制が施行 持続可能な循環型経済への移行を推進

Introduction

EU(欧州連合)では2021年7月3日、特定の使い捨てプラスチック製品とオキソ分解性プラスチック製の全製品の市場流通を禁止することなどを盛り込んだ新規則が施行された。

欧州の海岸を汚染するゴミの8割以上を占める使い捨てプラスチック製品とプラスチックを含む漁具への規制を段階的に強化することで、(1)廃棄物発生量の削減、(2)循環型経済への移行、(3)持続可能な代替手段の技術革新や普及を促進する狙いだ。2030年までにEU域内の全プラスチック容器包装材を再利用またはリサイクルする欧州プラスチック戦略の一環として位置付けられている。

禁止の対象となるプラスチック製品は、欧州の沿岸地域で一般的に見られる海洋ゴミの上位10品目。使い捨てのカトラリー(ナイフ、フォーク、スプーン、箸)、皿、ストロー、マドラー、綿棒の軸、風船の棒、発泡ポリスチレン製の一部の製品(カップ、食料・飲料容器)、オキソ分解性プラスチック製の全製品だ。

上記以外のプラスチック製品(漁具、タバコのフィルター、生理用品など)には、適切な廃棄方法やプラスチック製品が環境におよぼす影響を消費者に知らせるラベル表示が義務付けられるなど、異なる措置が適用される。

「パンデミック・プラスチック」と呼ばれる使い捨てのマスク、手袋、ガウンなどの医療関連プラスチック製品は今回の規制の対象外だが、2020年以降に急激に増加したこれらの廃棄物も生態系に有害な影響を与える可能性があるため、代替品を求める声が高まっている。

プラスチック飲料ボトルの使用は可能

プラスチック飲料ボトルの使用は禁止されてはいないものの、現在欧州では65%に止まる回収率を、2025年までに77%、2029年までに90%に引き上げる目標を設定している。さらに全ての新し飲料ボトルに使用される再生プラスチックの比率を、2025年までに少なくとも25%、2030年までには30%以上とすることで合意している。

また今回の規制に含まれる「拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility)」により、販売するメーカーはより厳しい説明責任を負うことになる。「汚染者負担原則(Polluter-Pays Principle)」に基づき、生産者は廃棄物処理の清掃費用の負担や、製品の環境への影響や適切な廃棄方法についてのラベル表示義務、ボトルにキャップを取り付けるなどの設計上の要件の導入などを行う必要がある。

<参考リンク>
1. Single-use plastics
https://ec.europa.eu/environment/topics/plastics/single-use-plastics_en
2. Circular economy: Commission provides guidance for harmonised application of Single-Use Plastic rules and advances on monitoring of fishing gear (31 May 2021)
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_21_2710
3. Guidance on the EU rules on single-use plastics
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv%3AOJ.C_.2021.216.01.0001.01.ENG&toc=OJ%3AC%3A2021%3A216%3ATOC

<関連記事>
循環経済に向けて廃棄物管理とプラスチック削減に取り組む(ドイツ) | 欧州が歩む循環型経済への道 -「コロナ後」のより持続可能な未来へ - 特集 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ(2020年6月4日)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2020/0601/c3af8f0eaf6ca6e1.html

脱プラスチックに向けて先進的な取り組みを進めるスタートアップ

環境規制に関して高い目標を設定することで、域内企業にイノベーションを促し、ビジネス機会の創出を図るEU。環境先進国ドイツでも、循環経済社会の構築を目指し、官民一体となってさまざまな取り組みが行われている。

今回の規制強化を受けて注目が集まるプラスチック製パッケージの代替品を設計・製造するスタートアップや、環境ビジネスのアライアンスなどを紹介したい。

Arekapak

https://arekapak.de
2018年、女性2人がベルリンで創業。インドのアレカヤシの葉を洗浄・乾燥させた後、型に入れてプレスするというシンプルな製法で、環境に優しいパッケージを設計・製造する。化学的な添加物を使用しないため、使用後の製品は有機ゴミとして捨てることができ、60日で土に還る。インド南部の農村地域の小規模生産者と協力することによって周辺地域の労働者の生計を確保するなど、インド経済の発展にも貢献したい考えだ。

Repaq

https://www.repaq.eu/
再生可能な原材料を使用した堆肥化可能なパッケージの開発、設計、製造、販売を行っているスタートアップ。2017年設立、ハンブルクとベルリンに拠点を置き、ドイツとヨーロッパのメーカーや加工業者、研究機関などのネットワークと連携しながら、「Zero Waste」の国際基準を満たした製品の開発を行う。

BIO-LUTIONS

https://www.bio-lutions.com/
2017年創業のハンブルグを拠点とするクリーン・テック企業。農業残渣を耐用性のある繊維に作り替える技術「Fibcro®」で特許を取得。生分解性や堆肥化が可能な使い捨て用品やパッケージ製品を製造・販売するほか、プラスチック廃棄物を削減するためのオーダーメイドのソリューションも提供する。

コミュニティを構築して多分野連携を促進

Greentech Alliance

https://www.greentech.earth/
グリーンテック・コミュニティ全体のコラボレーションを促進し、資金調達、販売、マーケティング、認知度向上などの緊急のニーズに応え、環境に配慮した経済への移行を世界規模で加速させることを目的に、2020年5月ベルリンで設立された。科学的な分析に基づいた気候変動対策を推進し、環境問題の解決に寄与するサービスや製品を創出・提供するグリーンテック企業をはじめ、VCやジャーナリスト、国際的な学術機関など、幅広い分野の専門家ら800人以上が参加している。

CRCLR

https://crclr.org/
ベルリンに拠点を置く循環型経済の実践のためのコミュニティ・ハブ「CRCLR」。コワーキングやコラボレーション、コミュニティ・イベントなどを通じて、循環型経済確立へのさまざまな取り組みを行っている。

グローバル企業が取り組むプラスチック廃棄物のサーキュラー・エコノミー

BASF’s ChemCycling™ project

https://www.basf.com/global/en/who-we-are/sustainability/we-drive-sustainable-solutions/circular-economy/mass-balance-approach/chemcycling.html
世界最大の総合化学メーカーBASF(本社:ルートヴィヒスハーフェン・アム・ライン )が主導する「ChemCycling™ project」は、廃プラスチックを産業規模でケミカルリサイクルし原料として再生する取り組みだ。BASFがパートナー企業から調達する廃プラスチックや廃タイヤ由来の熱分解油は、マスバランス方式に基づき一定量が化石資源由来の原料の代わりに割り当てられ、製品の製造に使用される。

持続可能なプラスチック利用に取り組むドイツ企業

プラスチック代替技術の研究開発や海洋生分解性を有する新素材開発などに注力し、循環型ビジネスの創出を行うドイツ企業を数例紹介する。
(取材協力:INAM - Innovation Network for Advanced Materials

traceless (Hamburg)

https://www.traceless.eu
農業残渣から堆肥化可能なプラスチックフィルムなどを製造しており、使い捨て製品に適した代替素材として注目されている。

Saperatec (Dessau-Roßlau)

https://www.saperatec.de
複合素材を分離する技術を用いて、使用済み製品を二次原料として再利用可能にする。

GOLDEN COMPOUND (Ladbergen)

https://golden-compound.com
ヒマワリの種皮から抽出した天然繊維を充填材や補強材として使用したプラスチック製品を製造。

Kleiderly (Berlin)

https://www.kleiderly.com
使用済みの衣類や繊維製品を粒状のバイオプラスチックに変えることで、世界の繊維廃棄物問題を解決と循環型経済を実現を目指す。


©️JETRO このレポートはCROSSBIEが日本貿易機構(JETRO)向けに作成したものを、許可を得て掲載しています。元のリンクはこちらから。

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